きりえ 「春遠からじ」

 



 二月の作品展が終わるころ、子どものそのの子どもたちは春の足音に耳を澄ます。春は学校への入り口だ。かすかな不安と期待に胸がふくらむ。どんな現実がこの子たちを待ち受けているのだろうか。
 この頃になると、年長組はずいぶん遠くまで散歩に行く。帰りに運動公園に寄って、ひと遊びした。この先生のモデルは、山野辺先生といって、もう子どものそのを退職して久しい。だからこの絵を最初に作ったのは、もう20年も前のことだ。モデルの子は無論、社会人になっている筈である。

 山野辺先生は、音楽教育に力を入れるある幼稚園に働いていたが、音楽家としては著名な園長の教育方針に疑問をさしはさんだために、不当に解雇された。解雇反対の闘争資金に飴を売りながら、そのへも訴えに来た。それが縁で、そのに来てもらった。がんばりやさんで、そののいまのカリキュラムの基本を作る仕事の中心になったひとりである。夫の実家に入らなくてはならなくなって、退職した。惜しい人を失った思いは今も忘れられない。
 年長組の担任のとき、子どもに木綿針と糸を与えて、手作りたこの道糸をつけさせようとして、悪戦苦闘していた。「ちょっと難しすぎたわ」と笑ったが、いつも新しいことに挑戦していた姿を懐かしく思い起こす。


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